こんな原価管理は役に立たない!

こちらは出来るだけ最新の出版の本を読もうと選んだが、読む前まではちょっと違うかなと思っていた。でも読み出すとそれは間違い、またこれが面白い。書き方のテンポがわたしの読むテンポと合っているのかもしれないケド。1冊目は知識レベルだったが、こちらは原価管理の現場の雰囲気を多少でも感じられる。こういうことは重要だと思う。
初っ端に「使われないとわかっていても毎月総ての製品原価を集計する理由」=「社長や役員が集計データを見たがる」に拍手。この理由で高額なシステムが売れる。仕事が回ってくる。「計算だけの原価管理から脱却する」のに「カネにうるさい、口がうるさい、金計算が得意、外出が好き」という設計経験者を入れるってところ、こんなパワフルな人、システムでも「火消し屋」に欲しい。「モノの流れを理解する」は、システム理解でも同じだなぁ、わたしももっと話をしなくちゃ。「日報はすぐにやめる」は、そうそうとうなずいちゃった。
この著者の別の本も読んでみたい。



こんな原価管理は役に立たない!


著者: 堀口 敬
出版社: 日刊工業新聞社 (2008/03)
ISBN-10: 4526060267
ISBN-13: 978-4526060267
発売日: 2008/03




以下は、気になったところの備忘録。



何のために製品原価を毎月計算するのか

使われないとわかっていても毎月総ての製品原価を集計する理由
・毎月集計して発表することでコスト削減が進むと思っている
・集計以外にやることが浮かばない
・社長や役員が集計データを見たがる(何に使うか分らないが)



製品原価を毎月集計したほうが良い製品とは
・その製品へのコスト削減活動が毎月行われている
・コスト削減の成果は「製品原価」で見るのがわかりやすい


製品原価=材料費+(賃率×作業時間)
材料費…その製品を作る為に使った材料の購入価格の合計
賃率…作業者が1時間働くことで発生する製造費用
 賃率=(材料費と部品費以外の製造原価)/(全就業時間×稼働率
 全就業時間…工場の全作業者の年間就業時間の合計
 稼働率…作業者が就業時間の中なで製品を作る為に働いている時間
     (稼働率が下がると賃率が上がる)
作業時間…その製品1台を作る為にかかった時間


部品を買ってきて組み立てている会社
製品原価=部品費+(賃率×作業時間)
部品費…部品メーカーとの価格交渉を年1回しかやらないのなら(年の初めの契約購入価格と予想される購入ロットサイズで計算した)「予想平均購入価格」で十分。価格交渉を毎月のようにやっているのなら標準ロットサイズについての「前の月の購入価格」を使う。
ここで「標準ロットサイズ」というのは、部品を買うときに一番多いロットサイズのことで、年の初めに決める。何故標準ロットサイズを決めるかというと、ロットごとの価格は変わらなくても、毎月のロットサイズの変化で価格が変化したようにみえるから。
賃率…年の初めに1回だけ決める。
作業時間…ほとんど作業工程を変えないのなら、年の初めに設定した標準作業時間を1年間使い続ける。毎月のように工程を改善しているのなら、改善した都度標準作業時間を更新する。


材料を買ってきて機械加工している会社
製品原価=材料費+(機械賃率×仮構時間)
 機械賃率…設備を1時間使うために必要な設備償却費のこと
 機械賃率=(設備の年間償却費)/(年間稼動可能時間×稼働率
材料費…材料メーカーとの価格交渉を年1回しかやらないのなら「予想平均購入価格」で十分。価格交渉を毎月のようにやっているのなら標準ロットサイズについての「前の月の購入価格」を使う。
機械賃率…年の初めに1回だけ決める。ただし、総ての設備1台づつに機械賃率を設定する必要はなく、設備の購入価格で3〜5種類くらいに分類して、それぞれに機械賃率を設定する。
年間稼動可能時間…その設備を使える時間。
稼働率…その設備が実際に動いている時間。段取時間が長くて稼働率が下がると機会効率が上がる。
加工時間…ほとんど加工工程を変えないのなら、年の初めに設定した標準作業時間を1年間使い続ける。毎月のように工程を改善しているのなら、改善した都度標準加工時間を更新する。



賃率を設定するときの注意点
・設備ごとの賃率設定は不要…設備間での価格差が大きい場合でも3種類くらいにまとめる
・職場ごとの賃率設定は不要
・そんな時間があったらコスト削減活動や稼働率アップの対策を行うべき


不良率の簡単な管理
・材料歩留まりが悪い場合は、重量を多めに計算する
・組み立てた中間製品の不良率が大きい場合は、使用量を多めにする
・修理時間が多い場合は、稼働率を低めに計算する


計算だけの原価管理から脱却する
・原価管理部門に設計者の血を入れる
 カネにうるさい、口がうるさい、金計算が得意、外出が好き
・設計部門や購買部門と人事交流をする



モノの流れを理解する
(1)工程順に見る
(2)何でも聞く
(3)デジタルカメラを使う、携帯ハードディスクの利用
(4)工程フローを書く


工場の業務プロセスの整理で見つかる課題
・あるべき工程がない
 例。検査工程、生産工程(一見無駄のような、中間製品を作る為の生産工程)
・不必要な工程がある


コスト削減の例
・標準化…部品の標準化、設計の標準化
・ティアダウン…競合製品からコスト削減のアイデアをもらう
・海外生産…安い労働力を使う
・原価企画…開発段階からのコスト削減
・VE…機能とコストの関係をチェックする
・部品数削減…管理費を減らす


ティアダウンとは
自社製品や競合製品などを分解することで、コスト削減やマーケティングを行う手法。
・コスト削減が進んでいる製品を分解して、自社のコスト設計に使えそうなアイデアを見つける。
・競合製品を分解して原価を見積り、新製品の目標原価を決める為の指標にする。
・顧客企業の製品を分解して、自社の部品や材料で置き換えることができるものを見つける(市場調査)。


VEとは
・VEはコスト削減すべきポイントの発見に使うべき
・VE技法は頭の整理をする道具と割り切るべき
・コスト削減アイデアの発見は「現物主義」による製品分析と製造現場の調査が一番有効


海外でのサプライヤー開拓
・現地サプライヤーについての情報収集
 芋づる式サプライヤー開拓
・現地サプライヤーの訪問と調査
 工場調査。本当にその部品を作ることができるか生産ラインをチェックする
・現地サプライヤーの指導
 サプライヤーを育てる気持ち


在庫を減らす効果
・不良在庫が減る
・倉庫代が減る
・お金が眠らない


在庫を減らす本当の効果
・現場で不良品がたまらない
・市場での不良の被害が小さい
・市場の反応を見て製品を出せる


在庫を持ったほうが良いケース
・まとめ生産をした方がかなり安く、不良在庫のリスクも小さい
・ジャストインタイムを行っている大手企業から受注したい場合
・材料をまとめ買いしたほうが安い場合


品質とコストのバランスの取り方
・安全品質と性能品質を区別する
・性能品質とコストの関係を明らかにする
・競合製品の性能品質とコストを基準に、自社の目標を決める


経営コンサルタントとの付き合い方
・耳学コンサルタントには、経営分析だけをしてもらう
・サラリーマンコンサルタントは、個人の実力をよく見極める
・会社OBコンサルタントは、経験を生かしてもらう(情報の鮮度に注意)
・お役所コンサルタントは、実務経験をチェックする


経営改善につながらない日報の例(こんな場合は止めたほうがよい)
・取引先から日報をつけるように言われたのでやっている
経営コンサルタントに言われてやっている
・今は使っていないが、そのうち役に立つと思うので付けている
・自分の作業を振り返るために付けている
・製品別の原価計算に使っている
・作業改善のアイデア発掘に使っている
・設備稼働率のチェックに使っている


限界利益で受注しても良いケース
・他の製品で会社のその年の固定費(労務費、設備償却費など)は回収できる
・その受注で、追加の労務費は必要ない
・その受注で、追加の設備投資は必要ない
・次の年には、コスト削減などで他の製品なみに固定費が回収できる
・上記4つの条件を満たせば、限界利益がプラスなら受注してもよい
 限界利益=売価−変動費(材料費、部品費など)